「うちの子、算数だけはどうも…」

中学受験はもちろん、その先の高校受験、大学受験まで見据えたとき、算数・数学の得意不得意は大きな分かれ道になります。
しかし、難関校を制するお子さんたちは、決して特別な才能を持っているわけではありません。彼らは、小学校低学年のうちに、算数・数学の根幹となる「考え方の土台」をしっかりと築いているのです。

算数力を支える3つの土台

「数の問題を考えるための土台」
「図形問題をやっていくための土台」
「文章問題をこなしていくための土台」
これら3つの土台をしっかり作っておくことが、本当の意味での実力養成につながります。

中学受験で難関校を狙う。
高校受験や大学受験で数学を確かな得点源にする。
そういったことのためにも、そのベースになる土台の育成方法を知ること。そして、低学年のうちからこれを実践していくことには大きな意味があります。

この土台が曖昧なまま高学年を迎えたら…。中学受験の勉強を始めても、塾に通っても、なかなか成果が出ません。「空回り」の状態に陥ってしまう結果になります。

今回は、算数の3つの大きな分野の中でも、すべての基礎となる「数の問題」に焦点を当てます。
お子さんの「数のセンス」を育むための「当たり前の策」を具体的にお伝えします。
これを実践すれば、お子さんは算数の世界を楽しみながら、将来の飛躍的な学力向上に繋がる確固たる土台を築くことができるでしょう。
低学年のうちが勝負です。「鉄は熱いうちに打て」ですね。

1.「数の問題」は算数の根幹(土台)!

算数で学ぶ内容は多岐にわたります。その中でも「数の問題」は、計算力はもちろん、規則性や数の性質、場合の数といった、算数・数学のあらゆる分野に通じる基礎となる重要な領域です。

足し算・引き算は「豊かな数の世界」への入り口

「たかが足し算、引き算」と思っていませんか?
実は、繰り上がりや繰り下がりを含む計算練習は、単なる作業ではありません。
それは、豊かで奥深い「数の世界」への大切な入り口なのです。

もちろん、基本的な計算は、ストレスなくスピーディーにできて当たり前。繰り返し練習させてください。
しかし、そこで終わらせてはいけません。

重要なのは、次の2点。
・単純な足し算や引き算の中に隠された規則性や数の性質に気づくこと
様々な工夫を考えることで、柔軟な発想力を養うこと

例①:足し算が倍数、そして数列へ
2に2を次々と足していくと、九九の2の段が完成します。
さらに足し続けると、2、4、6、8、…20、22、…と、2の倍数が並ぶ数列(偶数列)が現れます。
単純な足し算の中に、倍数や数列の考え方の萌芽が含まれているのです。

例②:引き算が負の数、そして無限へ
10から1を次々と引いていくと、9、8、7…と減っていき、最後は0になります。
小学校ではここで終わりですが、温度計を思い浮かべてください。
0からさらに1を引くと-1℃、-2℃、-3℃…と、引き算には終わりがないことに気づくかもしれません。
このように、身近な例を通して、数の世界は無限に広がっていることを実感できるのです。

このように、小さな数で足し算や引き算を繰り返すだけでも、「数の世界」の豊かなイメージは育まれ、それは将来の“算数のセンス”を構成する重要な要素となります。
ぜひ、小学校低学年のうちに、こういった体験をお子さんにさせてあげてください。

数を分解・合成する力は、思考の柔軟性を育む

計算は算数の全てではありません。ですが、基礎的な計算がスムーズにできることは、その後の学習を格段に楽にします。
特に、3つ以上の数を足したり、同じ数を足していったり、足し算の形に分解したりする力を養うことは、算数の土台を強固にする上で非常に大切です。

例③:一つの計算にも多様なアプローチを
94+47の計算。
筆算で正確に答えを出すことはもちろん重要です。しかし、

  • 94を100にするために6を借りて、47から6を引く → 100 + 41 = 141
  • 90と4、40と7に分解して足す → (90 + 40) + (4 + 7) = 130 + 11 = 141

このように、一つの計算に対して複数の考え方ができることを体験させましょう。
こうすることで、状況に応じた最適な解法を選ぶ力、そして何より頭を柔軟に回転させる力が養われます。

かけ算・割り算は、数の世界の探求をさらに深く(約数・倍数への繋がり)

かけ算や割り算も、「数の合成・分解」の力をさらに発展させ、数の世界の理解をより深めます。
特に、数をかけ算で分解する考え方は、高学年で学ぶ約数倍数の概念と深く結びついています。

例④:工夫一つで暗算も可能に(約数・倍数の考え方へ)
36 × 75 の計算。
筆算で正解することはもちろん大切です。しかし、少し頭を働かせると、 36 = 9 × 4, 75 = 25 × 3 36 × 75 = 9 × 4 × 25 × 3 = 9 × 3 × (25 × 4) = 27 × 100 = 2700 と、数をかけ算の形で分解できます。
そして、これを組み合わせることで、暗算で答えを導き出すことができます。
このように、数を様々な要素に分解して考える経験は、約数や倍数の理解にも繋がります。

足し算・引き算の基礎が、高学年の複雑な問題に対応する力へ(場合の数への繋がり)

低学年で培った足し算や引き算の基礎的な力も、高学年で学ぶ複雑な問題、例えば場合の数の問題を解く上で重要な土台となります。

例:場合の数の問題への応用
「10個のみかんをA、B、Cの3人で分ける分け方は何通りありますか?」

これは、10を3つの数の和に分解する問題です。
低学年のうちから数を自由に扱う経験を積んでいれば、 1 + 1 + 8, 1 + 2 + 7, 1 + 3 + 6, 1 + 4 + 5, … のように、書き出しのルールを自分で決め、順序良く調べていくことで、必ず答えに辿り着けます。
「最初の数が1増えたら、残りの数の合計は1減る」
こういった当たり前のルールを自分で見つけ出すことが、論理的な思考力を養う上で非常に大切なのです。

単純計算の練習は「大変な努力」…でも、未来への投資!

お子さんにとって、単純な計算練習は退屈で嫌なものかもしれません。
しかし、足し算の繰り上がり、引き算の繰り下がり、九九といった基礎的な計算を、考えることなくスラスラとできるようにしておきましょう。
これらは、ここで紹介したような「数のセンス」を育むための最も重要な条件です。
これができてこそ、「数の世界」は広がり、より高度な概念へとスムーズに進むことができるのです。

計算の基礎体力の例:低学年のうちに確実にマスターを!

  • 足し算:
    • 1桁 + 1桁(繰り上がりあり)
    • 2桁 + 1桁(繰り上がりあり)
    • 2桁 + 2桁(繰り上がりあり)
    • たして50になる組み合わせ
    • たして100になる組み合わせ
  • 引き算:
    • 2桁 – 1桁(繰り下がりあり)
    • 2桁 – 2桁(繰り下がりあり)
  • かけ算:
    • 九九(完璧に暗唱できるまで繰り返し!)

これらの基礎計算は、まるでスポーツにおける筋力トレーニングのようなものです。
地道な努力が必要です。でも、この基礎体力があってこそ、応用的な問題にも臆することなく挑戦でき、算数の面白さを真に味わうことができるのです。

さあ、今日から、お子さんと一緒に「数の世界」の扉を開けてみませんか?
きっと、これまで見えなかった算数の魅力、そしてお子さんの秘めたる才能に気づくはずです。